中宮(藤壺)と源氏の恋
「かやうのことにつけても、もて離れつれなき人の御心を、かつはめで
たしと思ひきこえたまふものから、わが心の引くかたにては、なほつら
う心憂し、とおぼえたまふ折多かり。」 源氏物語 榊
「源氏は尚侍との関係をもちながらも、隙をまったくお見せにならない
中宮(藤壺)をごりっぱであると認めながらも、恋する心には恨めしくも
悲しくも思うことが多かった。」与謝野晶子訳
「また、頼もしき人もものしたまはねば、ただこの大将の君をぞ、よろづ
に頼みきこえたまへるに、なほ、この憎き御心のやまぬに、ともすれば
御胸をつぶしたまひつつ、いささかもけしきを御覧じ知らずなりにしを思
ふだに、いと恐ろしきに、今さらにまた、さる事の聞こえありて、わが身
はさるものにて、東宮の御ためにかならずよからぬこと出で来なむ、と
思すに、いと恐ろしければ、御祈りをさへせさせて、このこと思ひやませ
たてまつらむと、思しいたらぬことなく逃れたまふを、いかなる折にかあ
りけむ、あさましうて、近づき参りたまへり。心深くたばかりたまひけむこ
とを、知る人なかりければ、夢のやうにぞありける。」 源氏物語 榊
「また、東宮の後援者も他にいなかったので、ただこの源氏だけを万事
にわたり頼りにしていたが、今でも源氏は藤壺を御当惑させるようなこと
が止まなかった。源氏との不義密通に御胸を痛めつつ、少しもひとの気
持ちを察しないと思うことさえ、とても恐ろしく、院が崩御した後、またその
ような関係をもつことは、自分はともかくも、今さら、源氏との不義の子で
ある東宮のために必ず大きな障害となることが起きるであろうと、御心配
になって、ひそかに祈祷までもさせて、源氏の恋を仏力で止めようと、でき
る限りのことを尽くして、源氏の情炎から身をかわしておいでになるが、あ
る時思いがけなく源氏が御寝所に近づいた。慎重に計画されたことであっ
たから知る人もなく、宮様にはまるで夢のようであった。」 与謝野晶子訳
藤壺は深い思慮と罪の意識の滅罪のために、修験者に祈祷を頼み、源氏
の情炎を思いとどまらせようとする。藤壺はこの罪の意識で悩み続けること
になる。桐壺帝の崩御後も、罪の意識は深まり、東宮の将来を心配するの
である。母性愛の方が、恋愛より優っていたということなのでしょうか。
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