2012年6月22日金曜日

軍王(いくさのおほきみ) の歌


[題詞]幸讃岐國安益郡之時軍王見山作歌
       
讃岐国安益郡(あやのこほり)に幸(いでませる時、軍王(いくさのおほきみ)
の山を見てよみたまへる歌




霞立つ  長き春日の  暮れにける  わけも知らず むらきもの 心を痛み
ぬえこ鳥  うら嘆げ居れば  玉たすき  懸けのよろしく  遠つ神  我が
大君の  行幸の  山越しの の ひとり居る  吾が衣手に  朝夕に  
還らひぬれば  大夫と  思へる我(あ)れも 草枕  旅にしあれば 思ひ遣
たづきを知らに  網の浦の  海人娘子(おとめ)らが 焼く塩の 思ひぞ
焼くる 吾が下心




<メモ>
万葉仮名覚書  吾大王 還比奴礼婆 海處女 吾衣手  吾下情


<鑑賞>
 

この長い歌の言いたいことは、吾下情(我が下心)というところです。
海人娘子らが焼く塩の思ひぞ焼くる 我が下心なんです。人前では
表さないが、胸中では 思い焦がれている。心の中は燠火のように
真っ赤にもえていると歌っています。


 霞立つ 長き春日の 暮れにける 巧みな歌ですよね。霞たつ朝から
暮れにける夜まで、警護している。長い春の日がとっぷり暮れて、
あたりが暗くなると、自然と家の妻のことが気にかかってくる。
きっと新婚なんでしょう。

そういう心が痛い夜の帳に、「ぬえこ鳥」が  「うら泣け居れば」と
 持ってきた訳です。全く巧みな歌です。
「ぬえこ鳥」がどんな鳥か分からなくても、ここで「ぬえこ鳥」なるもの
が掴めますよね。枕詞がもっている言葉の比喩的で、創造的な力
を、「ぬえこ鳥」に感じます。

し歌
 山越しの風を時じみ寝る夜おちず家なる妹を懸けて偲ひつ

<メモ>
万葉仮名覚書  小竹櫃(偲ひつ)
 
さて、厄介なのは次の注記です。次項に譲る。


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